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俳優の教科書コラム

コラム
2021.06.06

#007 なぜ俳優の芝居が流れてしまうのか?

「芝居が流れる」という意味がわかるでしょうか?

台詞は間違っていないし、ト書きに書いてある通りのことをちゃんとやっているのだけど、観客からすると、ただ情報がたれ流れているだけで、何のシーンなのかさっぱり分からない状態のことを言います。

映画監督が指導する演技ワークショップなんかで、俳優がダメ出しを受ける内容の多くはこれです。「芝居が浅い」という言い方をされる監督もいらっしゃいますが、根っこはほぼ同じ意味でしょう。また、「悪くはないんだけど、面白くない」「何とコメントしたらいいか分からない」と、あまり喜べないコメントをされて、困っている俳優さんをよく見かけますが、そう言われてしまう原因もおそらく芝居が流れているからだと思います。意外と演技経験者や子役出身の俳優に多いんですね。

芝居が流れてしまう原因の多くは、俳優の脚本を読み解く深さにあります。演技初心者や現場経験の少ない俳優の場合、どうしても台詞の言い回し(本質的には重要ではない)を気にしたり、動き方(いわゆる「段取り」)に頭がいっぱいで、肝心な脚本全体の狙いやシーンの意図を捉えようとする意識が薄くなっています。気合や稽古不足だけができない原因ではないんですね。

ただ新人の場合は、脚本読解の勉強を丁寧に積み上げていけばいいと思うのですが、気になるのは舞台やテレビの現場でそれなりに経験のある俳優です。養成所や専門学校で一通りの訓練をやってきた人もいるし、真面目な人ほど「これ以上何をすればいいんだろう」と解決できない無限のループに入ってしまい、最後は「自分にはセンスがない」という根拠のない結論に1人で行きついてしまう。大手の芸能事務所に所属している俳優に多いケースですが、このことがとても残念でなりません。

残念な俳優(あえてそういう言い方をしますが)は、ちゃんとした脚本読解の勉強をせずに現場経験だけを積んできた人が多いです。いや、脚本読解の必要を求められる仕事に出会えなかったという捉え方のほうが正しいのかもしれません。いずれにしろどうすればいいのか。答えは1つで、芝居に向き合うギアを変えなければいけない。いかに脚本の深いところに触ることができるか。俳優の質は脚本読解の深さで決まると言っても過言ではありません。これからでも脚本読解の勉強に真剣に取り組む勇気が俳優にあれば、少なくともこれまでよりは大きく飛躍できる。お節介なことかもしれませんが、脚本読解力が身につけば、芝居の上達云々よりも、俳優としての仕事自体が今までとは段違いに面白くなるだろうし、新しい景色が見えてくるのは間違いありません。

 

◆筆者:三谷一夫
映画24区代表・映画プロデューサー。関西学院大学を卒業後、金融業界を経て、映画会社に転身。『パッチギ!』『フラガール』を生んだ映画会社の再建に関わる。2009年に「意欲的な映画づくり」「映画人の育成」を掲げて映画24区を設立。直近のプロデュース参加作品に映画『21世紀の女の子』『ぼくらのレシピ図鑑』シリーズなど。著書に『俳優の教科書』 『俳優の演技訓練』がある。2020年秋より映画を志す俳優を支援するサービス『映画俳優スタートアップONLINE』を開始。twitter FB

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