映画24区トレーニング

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俳優の教科書コラム

コラム
2021.01.13

#005 俳優の生活濃度を考える

新年あけましておめでとうございます
2021年もどうぞ宜しくお願いします。

昨年末は都心から離れた「高尾」という場所で、俳優たちと合宿をして過ごしました。
都心から離れると言っても新宿から電車とバスで1時間程度なのですが、東京とは思えない程、山と森に囲まれた自然豊かな場所です。
この地域は、小中高生たちの合宿や大手企業の研修にもよく利用されているようですが、俳優にとっても、慌ただしい日常から解放され、集中して訓練に取り組むことができたんじゃないかと思います。ただ、冬の高尾は寒かったですね。大学時代、体育会アイスホッケー部だったにも関わらず、寒さに弱い私はベンチコートを肌身離さずの4日間でした。

さて、今回の合宿、映画24区としては5年ぶりの開催でしたが、改めてこのスタイルは幅広い学びが得られるなと再認識しました。
そもそも、なぜ私が俳優と合宿を始めたのかという話からしてみましょうか。
随分前ですが、今回講師で参加してくれた滝本憲吾監督に、彼の師匠である井筒和幸監督の現場の話を聞いたことがきっかけです。
「俳優は合宿が一番伸びますよ」と言われたんですね。

井筒組の現場は、業界では「井筒学校」と呼ばれ、とにかく参加したスタッフや俳優がよく育つことで有名でした。井筒組出身の監督は、滝本さん以外に、阪本順治、武正晴、小林聖太郎、谷口正晃、吉田康弘、藤澤浩和、と現在第一線で活躍している方がたくさんいます。俳優もたくさん輩出していますが、最も大きな功績を残したのが、2005年に公開された映画「パッチギ!」でしょう。

「パッチギ!」はキネマ旬報ベスト・テン第1位に始まり、毎日映画コンクール、ブルーリボン、ヨコハマ映画祭、日本アカデミーでの受賞ラッシュなど、作品自体が業界に大きなインパクトを与えた映画でしたが、とにかく俳優の存在が強烈でした。
新人俳優賞を総なめにした沢尻エリカを始め、塩谷瞬、高岡蒼佑、小出恵介、桐谷健太、浪岡一喜、尾上寛之、真木よう子、江口のりこなど、当時は世間から名前もよく知られていない無名の若手俳優たちが高く評価されました。この作品の現場で自信をつけた彼らのその後の活躍ぶりは誰もが知るところでしょう。

本作でチーフ助監督を務めたのが、「アンダードッグ」「全裸監督」「ホテルローヤル」など今や業界で引っ張りだこの武正晴監督です。その武さんの指導のもと、新人俳優の教育担当として現場を支えた助監督の1人が滝本さんなんですね。彼は撮影前から泊まり込みで行うリハーサルにおいて、夜な夜な俳優たちに叱咤激励を繰り返す中で、日に日に成長していく俳優たちの姿に「合宿スタイル」の効果を感じていたのかもしれません。
現在、井筒監督最新作「無頼」が公開中ですが、本作も約3,000人の中から滝本監督らがオーディションで選んだ無名の俳優が数多く出演しています。今後頭角を現す俳優が間違いなく出てくることと思います。

話は昨年末に戻りますが、今回の高尾合宿も4日間という短い期間ではありましたが、確かに俳優たちは変わりました。勿論、参加した俳優のレベルの差はあるし、変化の幅は大小ありますが、それでも確実に伸びていることは誰の目にもみてとれました。
合宿が終わってから、正月に効果の要因をあれこれ考えてみましたが、やはり一番は生活濃度があがったことなんだと思います。勿論、講義や講師の指導内容も大切ですが、スタッフや俳優仲間と食事をしたり、風呂に入ったり、夜遅くまで練習して悩んだりと、プログラムの表面上ではみえてこない、隙間時間の存在がとても大きかったと感じています。

拙著「俳優の教科書」にも書きましたが、世間一般の人たちは、会社や役所に勤めてさえいれば、本人にさほど意欲がなくても、身を置いた環境がそれなりのプロフェッショナルに育ててくれたりします(それ自体は決して褒められたことではありませんが)。
でも俳優って仕事のオファーがかかるまでは無職と変わらないので、だからこそ普段の生活の中身がとても大事なんです。

ただこういう話をすると、じゃ、どこのスクールやワークショップに通えばいいですか?って話になりがちなのですが、私が言っているのはもう少し広い視野で、生活基盤を充実させるってことです。最終的にはそれが最も質の高い訓練に繋がっていきます。勿論、いろいろな監督や演出家のワークショップや講座に参加して、刺激をもらうことは大事だし、何でも積極的にやったほうがいいと思うけど、ただがむしゃらにやるだけじゃ効果はさほど続かない。それよりも今回の合宿効果にみるように、俳優は時間をかけてでも、生活濃度をあげていくことに真っ先に取り組むべきだし、本気になるべきなんです。

映画24区トレーニングが昨年10月から提供している「映画俳優スタートアップ・オンライン」だって、インプット型・長期型の訓練の重要性をうたっていますが、詰まるところ、日常の生活濃度を一般人基準から俳優基準に引き上げましょうっていう提案です。私自身、自分にも常々言い聞かせているのですが、「環境を整える」って人間が一番効率よく成長できる鍵じゃないかと思うんですよね。

◆筆者:三谷一夫
映画24区代表・映画プロデューサー。関西学院大学を卒業後、金融業界を経て、映画会社に転身。『パッチギ!』『フラガール』を生んだ映画会社の再建に関わる。2009年に「意欲的な映画づくり」「映画人の育成」を掲げて映画24区を設立。直近のプロデュース参加作品に映画『21世紀の女の子』『ぼくらのレシピ図鑑』シリーズなど。著書に『俳優の教科書』 『俳優の演技訓練』がある。twitter FB

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