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俳優の教科書コラム

コラム
2020.12.09

#002 大きく差が開いた日本と韓国の俳優育成

「アジアで勝負できる俳優になる」シリーズ連載 第2/4回  ※シリーズ第1回第3回第4回

日本ではかつて映画の撮影所が俳優を育てていたのですが、1970年代に入り、映画の斜陽と共にシステムが崩壊し、代わって芸能プロダクションがテレビタレントを育てるようになります。

日本の芸能スクールや俳優養成所が増えるのもこの頃です。アイドルブームを後押しした「スター誕生」などのオーディション番組が次々と放送されたことで火がつきました。驚くのが、当時のテレビ向けの演技指導が、50年経った今でもほぼそのままのスタイルで継続されていることなんです。

練習生たちは台詞とト書きが書かれた短いテキストを渡され、家で台詞を一生懸命覚えます。そして講師の前でお芝居を披露して、ダメ出しをもらう―この発表会形式の練習に意味がないとは言いませんが、演じることそのものを純粋に楽しむ子供向けのレッスンと言わざるを得ません。プロの俳優向けにやっている国は世界中どこを探しても日本くらいでしょう。少なくとも映画の現場ではほとんど役に立ちません。

なぜなら、監督やスタッフの関心は俳優の演技そのものよりも、更にその奥にある「俳優が脚本をどれほど深く捉えているか」にあるからです。ですから、普段から脚本1冊を時間をかけて読み解く訓練をやっていない日本の若い俳優たちは、演じる意欲はあっても思考は停止したままです。演出家が現場でどれだけ頑張っても浅い芝居しか引き出せないのです。

一方、韓国は1998年の金大中政権以降、映像コンテンツの海外競争力をつけるべく、制作環境の改善や人材育成といった文化産業の底上げに、国家戦略として徹底的に取り組んできました。プロデューサー、監督、脚本家、技術スタッフ、そして俳優の技術も一気に引きあがっていきます。2003年、当時カンヌやベネチアなど世界中の映画祭で注目されていた映画監督のイ・チャンドンが文化観光部長官に就任した影響も大きかったと思います。

人間の本質を問う傑作!イ・チャンドン初期作品が見逃せない!※人間の本質を問う傑作!イ・チャンドン初期作品が見逃せない!

演劇大学もこの時期にたくさん作られ、俳優を目指す若い人たちが教養・実践の両面から徹底した勉強と訓練に取り組むようになります。世界三大映画祭では前述したイ・チャンドンを始め、キム・ギドク、パク・チャヌク、ホン・サンスらが常連監督となり、俳優や技術部門でも韓国映画の受賞ラッシュが続くことになりました。

韓国の俳優の特徴は、脚本にしろ、戯曲にしろ、普段から作品とじっくり向き合う時間を大切にするんですね。映画の現場でもクランク・イン前に監督と俳優が最も時間をかけるのは芝居の稽古ではなく、脚本に対する互いの意見交換です。彼らには、言葉の持つ意味を深く理解し、広い視野をもって物事を想像できないと、演技など到底できないという考え方が徹底されています。数枚のプリント用紙に書かれた台詞をいかにうまく言えるかといった表面的・短絡的な演技レッスンを続けている日本の俳優指導では太刀打ちできる訳がなく、この20年間で韓国の俳優たちとは圧倒的な差をつけられてしまったと言えます。

◆筆者:三谷一夫
映画24区代表・映画プロデューサー。関西学院大学を卒業後、金融業界を経て、映画会社に転身。『パッチギ!』『フラガール』を生んだ映画会社の再建に関わる。2009年に「意欲的な映画づくり」「映画人の育成」を掲げて映画24区を設立。直近のプロデュース参加作品に映画『21世紀の女の子』『ぼくらのレシピ図鑑』シリーズなど。著書に『俳優の教科書』 『俳優の演技訓練』がある。twitter FB

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