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俳優の教科書コラム

コラム
2020.12.16

#003 映画監督や演出家による日本の演技ワークショップの限界

「アジアで勝負できる俳優になる」シリーズ連載 第3/4回  ※シリーズ第1回第2回第4回

韓国のように、俳優を育成する専門大学を持たない日本では、2000年中盤頃から世界では類をみない特殊な形での演技レッスンが誕生します。それが、映画監督や演劇の演出家が自ら講師となって俳優に指導する「演技ワークショップ」です。

第一線で活躍している監督や演出家が直接演技をみてくれる訳ですから、普段なかなか現場に出れない俳優たちにとって、形式的な芸能スクールのレッスンよりも実践的であり、現場に抜擢されるチャンスもあって、力のある俳優たちからはとても人気がありました。

当時、金融から映画業界に転身したばかりの私も積極的に映画プロデューサーや監督たちと俳優育成に関わり、今では第一線で活躍している俳優もたくさんいます。当時を振り返ってみても、同じ目的を持った仲間が互いに切磋琢磨できる質の高い学びの場であったなと思います。

しかし、現在は監督側も俳優側も状況が変わってしまい、15年近く続けてきた映画監督によるレッスンの形もそろそろ限界かなと感じています。
本来、この演技ワークショップの最大の魅力は「監督と力のある俳優の出会いの場」にあったはずなのですが、現在、都心で頻繁に開催されているものは「演技未経験や力のない俳優でも簡単に監督と出会える場」に成り下がってしまったのです。俳優たちは演ずることへの意欲や情熱はあるのですが、基礎的な訓練をすっ飛ばしているし、何より俳優に必要なものづくりへの思考が停止状態にある人がとにかく多いのです。こうなると監督は現場に抜擢できるような俳優とはなかなか巡り会えないし、俳優もわざわざ自分に力がないことをPRしにいくようなもので、お互いに出会うメリットが見いだせなくなっています。

くれぐれも言っておきますが、映画監督や演出家は俳優育成の専門家ではありません。彼らは本来、「演出」のプロであって、「ものづくり」のリーダーです。演出部経験の豊富な監督は、俳優の力を一時的に引き出すことに長けていたりしますが、ただそれも俳優の実力というより、演出の範疇です。勿論、俳優に何かしらの気づきを与えることはできるかもしれませんが、演技力自体が飛躍的に伸びる訳ではないのです。

今後は演出部での下積み経験を積んだ監督が減っていくでしょうから、将来、映画監督による演技ワークショップが残り続けるとすれば、より「演出」中心のスタイルになっていくと思います。ただ、この形は俳優向けというより、むしろ演出力を磨きたい若手の監督が鍛えられる時間であって、演技力を磨きたい俳優がやるべき訓練はもっと他にたくさんあるのです。また、演出を受けたことだけで、演技力がついたと錯覚してしまう俳優が出てくることも否めなく、これが、映画監督による俳優指導の限界を私が感じる所以でもあります。次なる新しい学びのスタイルに移行していく時期かと思っています。
 
 
◆筆者:三谷一夫
映画24区代表・映画プロデューサー。関西学院大学を卒業後、金融業界を経て、映画会社に転身。『パッチギ!』『フラガール』を生んだ映画会社の再建に関わる。2009年に「意欲的な映画づくり」「映画人の育成」を掲げて映画24区を設立。直近のプロデュース参加作品に映画『21世紀の女の子』『ぼくらのレシピ図鑑』シリーズなど。著書に『俳優の教科書』 『俳優の演技訓練』がある。twitter FB

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